NORDESTE → BRAZIL → WORLD / MUSIC, DANCE & GATHERING

MUSIC GUIDE / NORDESTE

Forró

三つの楽器から、踊る場所が立ち上がる。

フォホーは一つのリズム名だけではありません。ブラジル北東部に根を持ち、音楽、ペアダンス、祝祭、演奏の場までを包む文化です。サンフォーナ、ザブンバ、トライアングルの音から、電子編成や現代のピゼイロまで、その広がりをたどります。

サンフォーナ、ザブンバ、トライアングルを演奏する女性3人組のTrio Sinhá Flor
サンフォーナ、ザブンバ、トライアングルによるTrio Sinhá Flor

Marco Aurélio Esparz / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

01ABOUT

WHAT IS FORRÓ?

音楽だけでなく、踊り、祝祭、場所。

Iphanの登録文書は、フォホーを「複数の音楽と踊りの社会的な実演」を核にする文化として捉えています。

forróという語は多義的です。20世紀初頭の記録では、音楽と踊りのある民衆的な集まりを指しました。のちに、baião、xote、xaxado、arrasta-pé、coco、toadaなどを聴き、踊る場、そのレパートリー、店、そして音楽ジャンルまでを指すようになります。

そのため「フォホーのリズムはこれ一つ」と決めると、文化の実像をこぼします。速いbaião、揺れるxote、足取りの強いxaxadoなど、曲ごとにアクセントも踊り方も変わります。

北東部の土地と経験を全国へ伝えたルイス・ゴンザーガの録音は大きな転機でした。一方で、ゴンザーガ一人がゼロから作った文化ではありません。演奏家、踊り手、祭りの主催者、楽器職人、移住者が各地で受け継ぎ、更新してきました。

SANFONA+ZABUMBA+TRIÂNGULO
02PLACE & MAP

NORDESTE / SERTÃO / CITIES / MIGRATION

北東部に根を持ち、人の移動とともに全国へ。

フォホーはペルナンブーコ州だけの文化ではありません。北東部各州の農村、町、州都、祭りが結びつき、移住者とともにリオデジャネイロやサンパウロへ広がりました。

地図の印は、巨大なSão João祭とフォホー文化で知られるCaruaruです。ただし、起源を一点に限定する印ではありません。Exu、Campina Grande、Recife、João Pessoa、Fortalezaなど、複数の土地がそれぞれの記憶と演奏実践を持ちます。

20世紀半ば以降、北東部から南東部への移住は、故郷の言葉、踊り、食、音楽を都市に運びました。現在はブラジル全土だけでなく、ヨーロッパや日本にもダンス・コミュニティがあります。

  • Exu / Pernambucoルイス・ゴンザーガの生地。sertãoの記憶を全国へ伝えた象徴的な土地
  • Caruaru / PernambucoSão João祭とフォホーの大規模な演奏・交流拠点
  • Campina Grande / Paraíba大規模なSão João祭を通じて多様な編成が交わる都市
  • Recife / Pernambuco録音、放送、劇場、都市文化と北東部の音が接続する拠点
  • São Paulo / Rio de Janeiro北東部出身者の移住とともにフォホーの店、舞踏会、バンドが定着
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地図 © OpenStreetMap contributors。印は一つの代表地点であり、文化の範囲を一点に限定するものではありません。

03SOUND

LISTEN CLOSER

何を聴けば、
違いが分かる?

まず三つの楽器の役割を分けて聴き、そのうえで曲がbaião、xote、xaxado、piseiroのどこに重心を置くか、踊る人の身体まで想像します。

01TRIO

低音・拍・刻みの会話

サンフォーナが旋律と和音を動かし、ザブンバが低音と反対側の高い打音で拍を組み、トライアングルが細かな脈を刻みます。三者の隙間が、少人数でも厚いグルーヴを生みます。

02MATRIZES

baiãoだけではない

baião、xote、xaxado、arrasta-pé、coco、toada。フォホーは複数の型を内包します。テンポだけでなく、低音の置き方、旋律の跳ね、歌の語り口を聴き分けます。

03DANÇA

二人と会場がリズムを完成させる

ペアで重心を共有し、歩幅、回転、距離を音に合わせます。決まった一つの型ではなく、地域、世代、音楽の速さ、会場の混み方によって踊りは変化します。

04HISTORY

ROOTS / PLACES / CHANGE

歴史を、
写真と映像でたどる。

一人の発明者や一つのリズムに還元せず、集まりを指す言葉、録音産業、移住、ダンスフロア、配信へと意味が広がった過程を追います。

  1. 「forró」はまず、音楽と踊りのある集まりだった

    Iphanの登録文書では、既知の初期記録におけるforróは、民衆的な祝祭や舞踏の場を指す多義的な語と説明されます。英語の「for all」から生まれたという有名な説だけで語ることはできません。

    セルジッペ州のフォホーの集まりで演奏を囲む人々
    音楽、踊り、人が集まる場そのものも「forró」

    Ministério da Cultura do Brasil / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons

  2. ルイス・ゴンザーガが北東部の音を録音とラジオへ

    ゴンザーガはHumberto TeixeiraやZé Dantasらと、baiãoを中心とするレパートリーを録音し、サンフォーナ、ザブンバ、トライアングルの小編成を強い舞台像へ整えました。1947年の《Asa Branca》は、干ばつ、移動、帰郷への願いを全国へ運びました。

    1957年にアコーディオンを持つルイス・ゴンザーガ
    ルイス・ゴンザーガ、1957年

    Arquivo Nacional do Brasil / Correio da Manhã / Public domain / Wikimedia Commons

  3. リズムと言葉が広がり、次の世代が越境した

    Jackson do Pandeiroは言葉の細かな切れと複雑なシンコペーションを際立たせ、Marinêsは女性歌手・バンドリーダーとして存在感を示しました。Dominguinhos、Elba RamalhoらはフォホーをMPBや大規模な舞台へ接続しました。

    アコーディオンを演奏するドミンギーニョス
    ドミンギーニョスとサンフォーナ

    Victor Soares / Agência Brasil / CC BY 3.0 BR / Wikimedia Commons

    ステージで歌うエルバ・ラマーリョ
    北東部の音楽を大舞台へ運んだエルバ・ラマーリョ

    Tabercil / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

  4. 電子編成と都市のダンスフロア

    Mastruz com Leiteなどのforró eletrônicoは、キーボード、ドラム、ギター、ホーンを加えた大編成と舞台演出を広げました。同時期、南東部ではpé-de-serraを再解釈するforró universitárioも成長しました。

    2001年にバイーア州カエチテーで演奏するMastruz com Leite
    大編成のforró eletrônicoを広げたMastruz com Leite、2001年

    André Koehne / CC BY 3.0 / Wikimedia Commons

  5. piseiro、配信、声の新しい近さ

    キーボード主体のpisadinha/piseiroがデジタル配信と短い動画で拡散しました。João Gomes、Mari Fernandezらは、低く近い歌声やsofrência、vaquejadaの文化を現代のポップ市場へつないでいます。

    2013年のサンパウロでフォホーを踊る人々
    サンパウロで踊るforrozeiros、2013年

    Carlos Ebert / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

  6. 文化遺産、そして国の文化としての承認

    2021年12月、Iphanは「Matrizes Tradicionais do Forró」をブラジル文化遺産として登録しました。2023年には連邦法14,720号が、フォホーを国民文化の表現として正式に認めました。

    2021年12月13日のフォホーの日の記念演奏
    「フォホーの日」とルイス・ゴンザーガの生誕を祝う演奏、2021年

    Isac Nóbrega / Palácio do Planalto / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

  7. UNESCO無形文化遺産への候補提出

    2026年3月、ブラジル政府はフォホーの伝統的マトリックスをUNESCO無形文化遺産の候補として提出しました。現時点では候補提出段階で、登録済みではありません。

05INSTRUMENTS

INSTRUMENTS / ROLES

フォホーの楽器と役。

象徴的な三人編成を入口にします。ただし、rabeca、pífano、8 baixos、pandeiro、ギター、ドラム、キーボードなども各地・各時代のフォホーを支えています。

01

Sanfona / fole

サンフォーナ/アコーディオン

旋律、和音、低音を一台で担い、呼吸するような蛇腹の強弱で曲を動かします。小型の8 baixosも伝統的な実践を支える重要な楽器です。

02

Zabumba

ザブンバ

両面太鼓。低い打面で重心を置き、細いバチで反対側に高い応答を作ります。単なる四拍打ちではなく、リズムごとの訛りを決めます。

03

Triângulo

トライアングル

連続する細かな刻みと開閉音で、テンポの表面を輝かせます。小さな楽器ですが、休符とアクセントがアンサンブルの推進力を左右します。

04

Voz e dança

歌とダンス

恋愛、故郷、干ばつ、仕事、祭り、ユーモアを歌い、踊り手が曲のアクセントを身体へ移します。演奏者だけで文化が完結するわけではありません。

06PEOPLE

KEY FIGURES / GROUPS

この場を作り、音を変えた人たち。

「王様」一人の系譜ではなく、歌い手、作曲家、女性バンドリーダー、大編成、配信世代までを並べます。

1957年にアコーディオンを持つルイス・ゴンザーガ
ルイス・ゴンザーガ、1957年

Arquivo Nacional do Brasil / Correio da Manhã / Public domain / Wikimedia Commons

01SANFONA / VOICE / BAIÃO

Luiz Gonzaga

ルイス・ゴンザーガ

Humberto Teixeira、Zé Dantasらとの作品を通じ、北東部の風景、干ばつ、移住、祭りを全国放送とレコードへ運びました。象徴的な三人編成と舞台衣装を確立した一方、文化全体の唯一の起源ではありません。

02VOICE / RHYTHM / COCO

Jackson do Pandeiro

ジャクソン・ド・パンデイロ

歌詞を打楽器のように細かく配置し、coco、rojão、forróのシンコペーションを鮮明にしました。《Forró em Limoeiro》は、踊る場の熱気とリズムの言葉を結ぶ入口です。

03VOICE / BAND LEADER

Marinês

マリネース

「Rainha do Xaxado」と呼ばれた歌手・バンドリーダー。男性中心に語られがちな初期の録音・巡業史の中で、力強い歌と舞台で女性の存在を可視化しました。

アコーディオンを演奏するドミンギーニョス
ドミンギーニョスとサンフォーナ

Victor Soares / Agência Brasil / CC BY 3.0 BR / Wikimedia Commons

04SANFONA / COMPOSITION / MPB

Dominguinhos

ドミンギーニョス

ゴンザーガに見いだされ、サンフォーナの語彙を洗練された和声と歌へ広げました。《Eu Só Quero um Xodó》《De Volta pro Aconchego》などで、フォホーとMPBの境界を自然に往復しました。

ステージで歌うエルバ・ラマーリョ
北東部の音楽を大舞台へ運んだエルバ・ラマーリョ

Tabercil / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

05VOICE / STAGE / NORDESTE

Elba Ramalho

エルバ・ラマーリョ

フォホー、MPB、ロック、演劇的な身体表現を結び、北東部の作曲家の作品を全国規模の舞台へ届けました。São Joãoの大舞台とポップ市場をつなぐ重要な歌い手です。

2001年にバイーア州カエチテーで演奏するMastruz com Leite
大編成のforró eletrônicoを広げたMastruz com Leite、2001年

André Koehne / CC BY 3.0 / Wikimedia Commons

06BAND / FORRÓ ELETRÔNICO

Mastruz com Leite

マストルス・コン・レイチ

1990年代にキーボード、ドラム、ギター、複数歌手を含む大編成を広げました。Rita de Cássiaらの作品とともに、forró eletrônicoの録音・巡業モデルを全国へ定着させました。

2024年に歌うジョアン・ゴメス
ピゼイロを全国的なポップへつないだジョアン・ゴメス

Multishow / CC BY 3.0 / Wikimedia Commons

07VOICE / PISEIRO / PERNAMBUCO

João Gomes

ジョアン・ゴメス

ペルナンブーコ州出身。低く近い声と簡潔なキーボード主体のグルーヴで、2020年代のpiseiroを大きな聴衆へ届けました。伝統の再現ではなく、配信時代の別のフォホー像です。

2023年の公演で歌うマリ・フェルナンデス
forró、piseiro、sertanejoを横断するマリ・フェルナンデス

Junior Silva Rodriguess / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons

08VOICE / PISEIRO / SOFRÊNCIA

Mari Fernandez

マリ・フェルナンデス

セアラー州出身。forróとsertanejoを横断し、恋愛のsofrênciaをpiseiroの反復へ重ねます。女性の声が現代フォホー市場の中心にあることを示す存在です。

07SONGS

SONGS TO START

まずは、
この曲から。

baiãoの全国化、リズムと言葉の精密さ、サンフォーナの歌心、電子編成、都市のxote、そしてpiseiroへ。8曲を年代順に聴くと、変化しても残る「踊る場」が見えてきます。

  1. 01baião/干ばつと帰郷

    Asa Branca

    Luiz Gonzaga

    Humberto Teixeiraとの共作。北東部の干ばつによる離郷と、雨が戻った土地への帰還の願いを、baiãoの国民的な響きへ結びました。フォホーを単なる陽気な祭りとして聞かないための基準点です。

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  2. 02言葉とシンコペーション

    Forró em Limoeiro

    Jackson do Pandeiro

    Edgar Ferreira作。歌の子音、間、反復がパーカッションのように動きます。踊りの場を題材にしながら、Jackson do Pandeiroのリズム感覚が一聴で分かる代表曲です。

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  3. 03xote/歌うサンフォーナ

    Eu Só Quero um Xodó

    Dominguinhos

    AnastáciaとDominguinhosの共作。ゆるやかなxoteの揺れ、簡潔な言葉、サンフォーナの呼吸が重なります。速さや派手さだけではないフォホーの親密さを聴けます。

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  4. 04帰郷/MPBとの接続

    De Volta Pro Aconchego

    Elba Ramalho

    DominguinhosとNando Cordelの作品。Elba Ramalhoの大きな歌と北東部のリズムが、親密な「帰る場所」への感情を全国的なポップへ運びました。

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  5. 05forró eletrônico

    Meu Vaqueiro Meu Peão

    Mastruz com Leite

    Rita de Cássia作。大編成、男女の歌、電子楽器、vaqueiroのイメージを結び、1990年代のforró eletrônicoが持つスケールを示しました。

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  6. 06forró universitário

    Xote dos Milagres

    Falamansa

    南東部の若いダンス層へxoteを広げた代表曲。pé-de-serraの楽器感を保ちながら、都市の大学生やライブハウスの文化と結びついた2000年前後の流れが分かります。

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  7. 07piseiro/低い声

    Meu Pedaço de Pecado

    João Gomes

    反復するキーボードと低い声を前面に置き、piseiroを配信時代の大ヒットへ押し上げました。少ない音数でも、踊りの重心と恋愛の切実さが強く残ります。

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  8. 08piseiro/女性のsofrência

    Não, Não Vou

    Mari Fernandez

    恋愛の拒絶を短い反復で押し出し、forró、piseiro、sertanejoの聴衆を横断した曲です。現代のフォホーが女性歌手とデジタル流通によって更新される姿を聴けます。

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08CONTEXT

BEYOND THE SHORTCUT

一言で決めつけない。

入口の説明だけで文化を単純化しないために、次の点を押さえておきます。

  1. 01

    forróは一つの拍型ではありません。baião、xote、xaxado、arrasta-péなど複数の音楽・踊りと、その場を含む多義的な文化です。

  2. 02

    「for all」が語源という説は有名ですが、確定した事実として扱えません。Iphan資料は初期の語を民衆的な祝祭・舞踏の場と結びつけています。

  3. 03

    サンフォーナ、ザブンバ、トライアングルは象徴的な編成ですが、それだけを「本物」とすると、rabeca、pífano、女性奏者、大編成、電子楽器の歴史を見落とします。

  4. 04

    forró eletrônicoやpiseiroを単に伝統の劣化と決めつけず、会場、録音産業、技術、聴衆の変化として比較する必要があります。

  5. 05

    São Joãoの時期に注目が集まりますが、フォホーは季節限定ではありません。各地の店、舞踏会、練習会、家庭、配信で一年を通じて続いています。

  6. 06

    北東部を一枚岩として語らないこと。州、都市、農村、世代、階級、人種、ジェンダーによって、誰が演奏し、何をフォホーと呼ぶかは異なります。

09SOURCES